驚愕?韓国就活「外見至上主義」の実態|証明写真修正・面接メイクからブラインド採用まで
韓国のある会社の面接での出来事。面接官が「文(ムン)さん」と呼びかけ、ある志願者が質問に答えました。しかし面接官は怪訝な顔で「失礼ですが、あなたではなく、隣の文さんにお聞きしたのですが…」と。志願者が「私が文ですが」と答えると、面接官は隣の志願者と履歴書の写真を見比べ、「写真がとても似ていたので混同しました」と言い訳したそうです。
これは笑い話のようで、実は現代韓国の就職活動の一端を示す象徴的なエピソードかもしれません。韓国社会では、依然として学歴と並んで「外見」が重視される傾向があり、就職活動においてもその影響は色濃く見られます。今回は、韓国の就職活動における「外見至上主義(외모지상주의:ウェモジサンジュイ)」の実態、特に驚きの証明写真事情や定番の面接メイク、そして近年変わりつつある採用の動きについて、詳しくご紹介します。
目次
「別人!?」証明写真が引き起こす混乱と新造語
冒頭のエピソードの原因は、二人の志願者が同じ有名な写真館で証明写真を撮り、同じように「完璧な」修正を施された結果、まるで双子のようにそっくりな写真になってしまっていた、というものでした。
面接官も困惑?フォトショップ修正の現実
外見が重要視される韓国では、就職活動で提出する証明写真も、単なる本人確認書類以上の意味を持ちます。そのため、多くの写真館では、プロのカメラマンが撮影した後、フォトショップ(포토샵:ポトシャプ、略して뽀샵:ポシャプ)を使って、まるで芸能人の宣材写真のように徹底的に修正を施すのが一般的になっています。
肌を滑らかにし、シミやニキビを消し、目を大きくし、鼻筋を高くし、顎のラインをシャープにする…。こうした修正は当たり前で、むしろ修正しない方が珍しいとさえ言われます。その結果、実物とはかなり印象が異なる「理想化された」写真が出来上がり、面接官が本人と認識できない、という事態も起こり得るのです。
【会話例:写真館での注文】
손님: 저.. 사진 뽀샵 해주나요?
客:あの… 写真のフォトショップ(修正)していただけますか?사진관: 네. 해드릴께요. 요금은 만원 별도예요.
写真館:はい、いたしますよ。料金は1万ウォン別途です。(※料金はあくまで例)손님: 근데 티 안나게 해주세요.
客:でも、バレないように(修正したことが分からないように)してくださいね。사진관: 네. 이쁘게 해드릴께요.
写真館:はい。綺麗にして差し上げますよ。—
※뽀샵(ポシャプ):フォトショップの略語。
※별도(ピョルト):別途。
※티(가) 나다(ティ(ガ) ナダ):「티」はある様子や気配、「나다」は現れる。全体で「(隠していることが)表に現れてわかる、バレる」という意味。「티 안나게」で「バレないように、分からないように」。
(例:막내티 末っ子っぽさが出る、시골티 田舎者っぽさが出る)

プロによる修正は当たり前?韓国の証明写真は実物とギャップがあることも。
「ポランソン サンドゥンイ」:フォトショップが生んだ双子?
このように、誰もが同じような基準で修正された結果、個性が失われ、まるで一卵性双生児のように似通った証明写真ばかりになってしまう状況を皮肉って生まれたのが、
포란성 쌍둥이(ポランソン サンドゥンイ)
という新造語です。「포토샵(ポトシャプ)」+「일란성(イルランソン:一卵性)」+「쌍둥이(サンドゥンイ:双子)」を組み合わせた言葉で、「フォトショップによって作られた一卵性双生児」という意味合いです。(※現在も広く使われているかは不明ですが、当時の状況をよく表しています。)
美容整形と「ウィランソン サンドゥンイ」
証明写真だけでなく、美容整形が盛んな韓国では、実際に顔立ちが似通ってしまう現象も指摘されています。特に、ソウルの狎鴎亭(アックジョン)など美容クリニックが多いエリアの広告を見ると、整形後の顔がどれも同じような理想的なパーツの組み合わせに見えることがあります。そこから生まれたのが、
의란성 쌍둥이(ウィランソン サンドゥンイ)
という新造語です。「의사(ウィサ:医者)」+「일란성(イルランソン:一卵性)」+「쌍둥이(サンドゥンイ:双子)」で、「医者によって作られた一卵性双生児」を意味します。これもまた、外見至上主義と画一的な美の基準に対する皮肉が込められた言葉と言えるでしょう。
過度な修正は逆効果?「自然な修正」へのシフト
しかし、近年ではあまりにも修正しすぎた証明写真は、かえって面接官に不信感を与えたり、自己肯定感が低いと見られたりするリスクがある、という認識も広まってきました。そのため、最近の写真館では、「티 안나게 살짝(ティ アンナゲ サルチャッ:バレないように、そっと)」、つまり、あくまで本人らしさを残しつつ、清潔感や好感度を上げる程度の「自然な修正」を売りにするところが増えています。「修正はするけれど、やりすぎない」というのが、現在のトレンドと言えるかもしれません。
韓国社会に根付く「外見至上主義(ウェモジサンジュイ)」
こうした証明写真や整形をめぐる現象の根底にあるのが、韓国社会に根強いとされる「외모지상주의(ウェモジサンジュイ:外貌至上主義)」、すなわち外見を非常に重視する価値観です。
なぜ外見が重視されるのか?文化的・社会的背景
韓国で外見が重視される理由としては、様々な要因が考えられます。
- メディアの影響: テレビやインターネットに登場するアイドルや俳優たちの美しい容姿が、美の基準として強く意識される。
- SNSの普及: Instagramなどで「いいね」を多く集めるような、見た目の良い写真やライフスタイルが称賛され、外見への関心を高める。
- 競争社会: 厳しい競争の中で、外見も自己管理能力や努力の表れとして評価される側面がある。
- 集団主義・同調圧力: 周囲から浮かないように、社会的に「良し」とされる外見基準に合わせようとする意識が働く。
就職活動における外見の「スペック」化
特に就職活動においては、学歴、語学力、資格などと同様に、外見も合否を左右する重要な「スペック(스펙:スペク)」の一つと見なされる傾向がありました。「実力は基本、学歴と外見は(有利に働く)オプション」という言葉が、その現実を表しています。企業によっては、採用基準に「容姿端麗」といった項目が含まれていると噂されたり、面接官の主観的な印象が評価に大きく影響したりすることもあったようです。
ルッキズムへの批判と変化の兆し
しかし、こうした外見至上主義、いわゆる「ルッキズム(Lookism)」に対しては、国内外から多くの批判が寄せられてきました。外見による差別、画一的な美の基準の押し付け、若者へのプレッシャーなどが問題視され、近年では韓国国内でもルッキズムに疑問を呈する声や、ありのままの自分を受け入れようという「ボディポジティブ」の考え方、多様な美しさを認めようという動きが少しずつですが広がりを見せています。
面接突破の鍵?「フライトアテンダントメイク」とその実態
厳しい就職戦線を勝ち抜くため、多くの就活生が力を入れるのが「面接対策」です。その一環として、特に女子学生の間で人気を集めてきたのが、通称「フライトアテンダントメイク(승무원 메이크업:スンムウォン メイクオプ)」と呼ばれる面接用のメイクです。

清潔感と信頼感が重要視される面接スタイル。近年は変化の兆しも。
なぜフライトアテンダント?目指すは「好印象」
なぜ「フライトアテンダント(客室乗務員)」なのでしょうか?それは、フライトアテンダントに求められるイメージ、すなわち「常に笑顔を絶やさず、清潔感があり、親切で、信頼できる印象」が、多くの企業の面接官が就活生に求める「好印象」と重なるためです。特定の職種を目指す場合だけでなく、一般企業の面接においても、このメイクが「面接ウケが良い」と考えられてきました。
メイクのポイント:清潔感、信頼感、ポジティブさ
フライトアテンダントメイク(面接メイク)の具体的なポイントは以下の通りです。
- 澄んだ瞳を演出するアイメイク: 派手な色やラメは避け、ブラウン系のナチュラルなアイシャドウで陰影をつけ、アイラインは細く丁寧に引きます。記事にあるように、白系のアイライナーを下まぶたの粘膜に入れることで、白目をクリアに見せ、瞳を際立たせるテクニックも使われます。キラキラしすぎない、清潔感のある輝きがポイントです。
- 血色感を出すチーク&リップ: 健康的でポジティブな印象を与えるために、血色感は重要です。コーラルピンクやピーチ系のチークをふんわりと入れ、リップも派手すぎず、顔色を明るく見せる同系色を選びます。ツヤ感も大切ですが、テカテカしすぎない上品な仕上がりが求められます。
- 厚塗り感のないベースメイク: 清潔感を出すためには、素肌がきれいであるかのような、ナチュラルで均一なベースメイクが基本です。カバー力はありつつも、厚塗り感が出ないように、クッションファンデーションやBBクリームなどを薄く丁寧に重ねます。
ヘアスタイルとの連携:お団子ヘアが定番?
フライトアテンダントのイメージといえば、きっちりとまとめた「お団子ヘア(똥머리:ットンモリ)」が定番です。面接メイクも、このヘアスタイルに合うように、顔周りがすっきりと見え、清潔感や知的な印象を与えるように意識されます。もちろん、職種や企業の雰囲気によっては、ダウンスタイルやポニーテールなどが適切な場合もあります。
専門スタジオも人気:プロに任せる就活生
面接メイクは、普段のメイクとは異なる技術が求められるため、自分で行うだけでなく、プロのメイクアップアーティストにお願いする就活生も少なくありません。特に、写真映えも考慮される航空会社やアナウンサーなどの職種を目指す場合、証明写真の撮影とセットで、専門のスタジオでヘアメイクをしてもらうのが一般的です。記事にあるように、弘大(ホンデ)などの若者が集まるエリアには、面接メイク専門のスタジオも多く存在し、料金は5万ウォン(約5千円)程度からが相場のようです。(※料金は変動します)
最新トレンド:画一的から「自分らしさ」へ?男性の面接メイクは?
かつては画一的な「フライトアテンダントメイク」が主流でしたが、近年は企業側も多様性を重視する傾向があり、就活生の側も「自分らしさ」を表現したいという意識が高まっています。そのため、必ずしも全員が同じメイクをするのではなく、清潔感や信頼感という基本は押さえつつも、自分の個性や長所を活かしたメイクを取り入れる動きも見られます。
また、男性の就職活動においても、外見への意識は高まっています。清潔感のある髪型や服装はもちろん、眉毛を整えたり、BBクリームやコンシーラーで肌をきれいに見せたり、リップクリームで唇の乾燥を防いだりするなど、最低限の「グルーミング」を行うことが、ビジネスマナーとして認識されつつあります。
変化の波:ブラインド採用と能力中心評価への動き
長年続いてきた韓国の就職活動における「外見至上主義」ですが、近年、その流れを変えようとする動きも出てきています。
ブラインド採用とは?導入の背景と目的
「블라인드 채용 (ブラインド チェヨン:ブラインド採用)」とは、履歴書やエントリーシートから、写真、学歴、出身地、家族構成、身体的条件といった、職務遂行能力とは直接関係のない情報を排除し、純粋に個人の能力や経験、ポテンシャルに基づいて選考を行う採用方式です。学歴偏重や縁故採用、そして外見による差別といった、従来の採用活動の問題点を是正し、公正な機会を提供することを目的として、文在寅(ムン・ジェイン)政権下で公企業を中心に導入が推進されました。
公企業を中心に導入拡大、民間企業への影響は?
現在、多くの公企業や公共機関では、ブラインド採用が導入されています。これにより、少なくとも書類選考段階では、外見や学歴といった「スペック」に左右されずに評価される機会が増えました。しかし、民間企業への普及はまだ限定的であり、特に大手企業などでは依然として学歴や外見が重視される傾向が残っているとも言われています。また、書類選考はブラインドでも、面接段階では結局外見が評価されてしまう、といった「形骸化」を懸念する声もあります。
NCS(国家職務能力標準)など能力評価の重視
ブラインド採用と並行して、学歴やスペックではなく、実際の職務に必要な知識、技術、態度を評価しようという動きも活発です。その代表が「NCS (National Competency Standards:国家職務能力標準)」です。公企業などの採用試験では、このNCSに基づいた筆記試験や面接が行われることが増えています。これにより、単なる暗記力や学歴ではなく、実務に即した問題解決能力や職業倫理などが問われるようになっています。
外見重視は本当に変わるのか?今後の課題
ブラインド採用やNCS導入といった制度的な変化は、韓国の就職活動における外見至上主義や学歴偏重に一石を投じたことは間違いありません。しかし、社会全体の意識や、面接官個人の主観的な評価までを完全に変えることは容易ではありません。今後、これらの制度が形骸化せず、実質的な能力中心の採用が社会全体に定着していくかどうかが、大きな課題と言えるでしょう。
まとめ:外見だけじゃない!多角化する韓国の就職活動
韓国の就職活動における「外見至上主義」は、証明写真の過度な修正や画一的な面接メイクといった現象を生み出してきました。その背景には、メディアの影響や競争社会、集団主義といった韓国社会の様々な側面が複雑に絡み合っています。
しかし、近年はルッキズムへの批判や多様性を尊重する声が高まり、政府や企業もブラインド採用や能力中心の評価を取り入れるなど、変化の兆しも見られます。「実力は基本、学歴と外見はオプション」という考え方も、少しずつ過去のものになりつつあるのかもしれません。
韓国の就職活動は依然として厳しい状況が続いていますが、外見という「スペック」だけに頼るのではなく、自身の持つ本当の能力や経験、個性を磨き、それを効果的にアピールすることが、ますます重要になってきていると言えるでしょう。外から見ていると驚くことも多い韓国の就活事情ですが、その変化にも注目していく必要がありそうです。
【会話例:面接メイクは基本?】
정은: 나 다음주에 면접인데 뭘 입어야 될지 모르겠어.
ジウン:私、来週面接なんだけど、何を着たらいいか分からない。유나: 옷도 중요하지만 메이크업이 더 중요한 거 알지?
ユナ:服も大切だけど、メイクがもっと大切なこと知ってるでしょ?정은: 메이크업? 그냥 화장하면 되지 뭐.
ジウン:メイク?ただ(普段通り)化粧すればいいんでしょ。유나: 요즘에는 승무원 메이크업이 기본이야.
ユナ:最近はフライトアテンダントメイクが基本だよ。정은: 난 스튜어디어스 면접 아니야.
ジウン:私はスチュワーデスの面接受けるんじゃないんだけど。
(※一般企業の面接でも、好印象を与えるための「面接メイク」が重要視されている(されていた)ことがうかがえる会話例です。)