韓国と北朝鮮の言語文化:なぜ違いがあるのか

    1. 韓国語講座・勉強

    「韓国と北朝鮮は同じ朝鮮半島なのだから同じ言葉を使っているんでしょう?」そう思っている方はいませんか?

    基本となる言語や文字は同じですが、実は発音や外来語の扱いなど少しずつ異なる部分があるんです。今回はそれぞれの言語の違いを学習します。

    韓国と北朝鮮の言語文化:なぜ違いがあるのか

    韓国語と北朝鮮語の違いとは?

    韓国語と北朝鮮語は、言語として非常に似ています。韓国語を勉強し始めたばかりの人が、韓国人と北朝鮮人がどちらも登場するドラマを見ていても、言語の違いはなかなかわからないでしょう。しかし意外にも、韓国語と北朝鮮語には多くの違いがあります。

    北朝鮮から韓国に移り住んだ人でも、韓国人からしたら発音や語尾から北朝鮮人だとすぐにわかるほどです。この2つの言語の違いは主に発音・語彙・文法に関連しています。以下でその主な違いをいくつか示します。

    発音

    一般的に、韓国語はソウル方言を基準、北朝鮮語は平壌方言を基準としていますが、この2言語には発音に微妙な違いがあります。

    たとえば一部の音の発音が異なるり、韓国語と北朝鮮語でアクセントの置かれる位置が微妙に異なる場合です。これは単語や文の響きに大きな影響を与えるので、韓国語初学者からすると、北朝鮮語がさっぱりわからなくなる要因の1つといえるでしょう。

    特定の単語や表現において、韓国語と北朝鮮語で異なる発音が見られることもあります。語尾に抑揚がないことから、ドラマで聴くような北朝鮮語は、少しぶっきらぼうで怖い印象をもつことがあるでしょう。

    語彙

    韓国語と北朝鮮語の語彙にはいくつかの違いがあります。政治的・歴史的な要因により、一部の単語が異なる場合があります。

    たとえば北朝鮮では、南北分断に伴う政治的な要因からくる独自の用語が存在します。統一を指す言葉や特定の歴史的出来事に関連する単語が異なることがあるのです。加えて北朝鮮は軍事的な状況が続いているため、軍事用語にも違いが生じます。

    また、同じ意味を持つ単語でも、韓国語と北朝鮮語で異なる言葉が使用されることも多くあります。

    文法

    韓国語と北朝鮮語の文法は基本的に似ていますが、実は異なる部分が多くあります。たとえば、敬語を使うときに韓国語と北朝鮮語で異なる表現や規則が存在します。

    一部の人称代名詞が異なることがあり、「私」や「あなた」に相当する言葉が韓国語と北朝鮮語で異なることも。これではお互いの伝えたいことがうまく伝えられず、苦労しそうですね。

    敬語の使用にも差異があります。北朝鮮語では、尊敬語と謙譲語が韓国語よりも独自の形態を持っています。特に北朝鮮では、リーダーや高位の人物に対する特有の尊敬表現が使われることがあり、国の文化を象徴しているといえるでしょう。

    発音法

    韓国語と北朝鮮語の発音法にもいくつかの違いがあります。たとえば韓国語では「」(ng音)が母音の前に来ないことが一般的ですが、北朝鮮語では母音の前に来ることがあります。

    これらの違いは、それぞれの言語が異なる地域で発展した結果生じたもので、基本的な言語理解はどちらのバリエーションを話す人々にとっても通用します。ただし特定の文脈やコミュニケーションのニーズに応じて、適切なバリエーションを使用することが重要です。

    これ以外にもいくつかの違いが見られます。北朝鮮では、伝統的な筆記体(行書)が学校や公共の場で筆記体が一般的に教えられ、韓国よりも広く使われています。一方、韓国では主に活字体(印刷体)が一般的です。

    また北朝鮮では公式な文書や表示物において、伝統的な筆記体が主に使用され、一部の言葉において独自の表記が存在します。韓国では、公用語としてのハングルの正書法は統一されており、主に活字体が使われます。

    国旗のある韓国の地図。

    頭音法則:韓国語と北朝鮮語の発音の違い

    頭音法則

    韓国ではソウルの言葉が国の標準語(표준어)として定められています。一方、北朝鮮では平壌の言葉を文化語(문화어)と呼び、国の公用語としています。

    この二つの言語のうち、最も大きな違いは韓国語が頭音法則を適用しているということです。

    韓国語の頭音法則とは

    頭音法則とは、一部の単語の初めの音が他の音に変わることを指します。

    この法則により、韓国語では漢字のが単語の冒頭に来たときにはとなります。

    例えば漢字で「子女」と書く単語は「자녀」(子ども)ですが、その漢字を逆にした「女子」という単語は「여자」(女性)です。しかし朝鮮語では「女子」をそのまま「녀자」と書きます。

    韓国語では漢字のが単語の冒頭に来たときにも、に変化します。そのため「料理」という単語も韓国語では「요리」ですが、朝鮮語では「료리」となります。

    さらに韓国語では漢字のが単語の冒頭に来るときにも、と変わります。

    それで「労働」を韓国では「노동」と書きますが、北朝鮮では「로동」と書きます。

    ここまで大きな違いがあると、同じハングルを使っていても異なる言語であることが明らかです。韓国語をマスターし、北朝鮮語を聞く機会が増えると、これらの違いを会話の中から見つけることができるようになるかもしれません。

    漢字語の使用:韓国と北朝鮮の文字文化

    韓国では漢字語をよく使用しますが、北朝鮮では独自の固有語が好まれます。固有語といわれてもよくイメージができないでしょう。

    例えば「うつ病」は韓国では「우울증」(憂鬱症)となりますが、北朝鮮では「슬픔증」(悲しみ症)となります。他にも「洪水」が韓国では「홍수」となるのに対し、北朝鮮では「큰물」になります。

    日本人が韓国語を学ぶときに漢字語に助けられることが多いと思いますが、固有語が多い北朝鮮語の場合、新たに覚えなければならない語彙がたくさんあるでしょう。

    地球儀は、韓国の活気に満ちた文化からインスピレーションを得た、カラフルな付箋とノートに囲まれています。

    外来語の扱い:韓国と北朝鮮の異なるアプローチ

    韓国では外来語を使うことが多いですが、北朝鮮では外来語や外国語の輸入を統制しており、できる限り固有語に置き換えられています。

    例えば「ワンピース」のことを韓国では「원피스」といいますが、北朝鮮では「달린옷」(ぶら下がった服)といいます。

    さらに韓国では「アイスクリーム」をそのまま「아이스크림」と書くのに対し、北朝鮮では「얼음보숭이(氷の小豆菓子)」といいます。他にも「タイピング」が韓国では「다이빙(ダイビング)」、北朝鮮では「뛰여들기」となります。

    この他にも数多くの異なる表現方法をする外来語があり、韓国人にも馴染みのないものが多く存在します。北朝鮮では政府による言語の統制が強く、特に政治や社会に関連する表現において、異なる言い回しが見受けられるのです。

    会話の例:実際の言語使用を通じて見る違い

    それでは北朝鮮の言語に関する会話の例文を見ていきましょう。

    미나:퀴즈 하나 낼게요. 북한말 ‘원주필’이 뜻하는 물건은 무엇일까요?

    クイズを一つ出しますね。北朝鮮の言葉「円珠筆」が意味する物は何でしょうか?

    유리:아, 그거 쉽죠. 볼펜!

    あ、それ簡単でしょ。ボールペン!

    미나:정답이에요!!

    正解です!!

    上記の例文には意志を表す表現「()ㄹ게요」(~しますね)が出てきました。動詞「내다」(出す)には語幹の最後にパッチムがないので「~ㄹ게요」が付いています。

    韓国では「北朝鮮」のことを「북한」(北韓)と呼びます。これに対し「韓国」を「남한」(南韓)と呼ぶこともあります。

    北朝鮮と韓国の 2 つの国旗で、韓国両国を表します。

    韓国と北朝鮮の言語文化の影響

    同じ朝鮮半島にあるのに韓国と北朝鮮で言語が異なるのには、3つの大きな要因があります。それは社会的要因と地理的要因・政治的要因です。

    社会的要因

    韓国は成長の過程でアメリカから、また北朝鮮はソ連・ロシアからの支援を受けながら発展していきました。そのため、それぞれ支援を受けた国の言語が元になっている外来語が数多くあります。

    例えば、日本でも外来語としてよく使われる「トラクター」のことを、韓国では英語のとおり「트랙터(tractor/トゥレクト)」と発音します。その一方で、北朝鮮ではロシア語のとおり「뜨락또르(трактор/トゥラクトル)」と発音するのです。

    日本人の私達からしたら、韓国語の方がなじみがありますよね。

    地理的要因

    地域によって方言があるのはどこの国でも同じです。韓国ではソウル、北朝鮮では平壌で使われる言葉が標準語とされ、地方に行けば行くほどその訛りはひどくなります。韓国も南方の釜山などに行くと、韓国の標準語とは程遠い訛りを聞くことができます。

    韓国ドラマには、釜山訛りの体格の良い男性が釜山男性の象徴として登場することも少なくありません。北朝鮮でも同じように、地方に行けば行くほど訛りが強くなっているでしょう。

    政治的要因

    韓国と北朝鮮は異なる政治体制を採用しており、これが文化や言語に影響を与えています。北朝鮮は独自の社会主義体制を維持しているため、政府による強力な文化統制が行われています。政府が公式な表現や用語を指定することがあり、特有の言葉や表現が生まれています。

    これらの要因は相互に絡み合って、韓国と北朝鮮の言語文化の異なる特徴を形成しています。一方で、共通の歴史的な起源や言語基盤も存在しており、朝鮮半島全体の豊かな言語文化の一環となっています。

    北朝鮮の言語に関する出来事

    2023年1月に北朝鮮の最高人民会議(国会)が開かれました。そして、この会議にて「平壌文化語保護法」という新しい法律が採択されました。

    最高人民会議は「平壌文化語保護法」とは、北朝鮮の人々の言語生活の領域で「非規範的な言語要素を排撃」するものと説明しています。

    北朝鮮はすでに2020年12月に、韓国など海外のドラマや音楽などの視聴や販売などを厳罰化した「反動思想文化排撃法」を制定し、さらに2021年9月には青少年の生活習慣に国が介入する「青年教養保障法」も定めています。違反した場合、10年もの懲役刑になりかねない厳しい処罰事項のある法律だそうです。

    北朝鮮では近年青少年の間で、妻が夫を「ヨボ」と呼ばず、韓国風に「オッパ」と呼んだり、ボーイフレンドを「ナムチン」、ガールフレンドを「ヨチン」「チャギヤ」と呼んだりするなど、韓国の影響が強く広がっているようです。

    こういった風潮から、青少年の服装や韓国式の言葉や行動を集中的に取り締まっており、その対象者の80%が10~30代の青少年層とのことです。

    2023年6月には、韓国風の言葉遣い・ファッション・ヘアスタイルをしたことで何度も摘発され処罰を受けたのに、反省せずに同様の行為を繰り返したとして1名に無期懲役刑がくだされました。

    しかし取締を受けた韓国風の言葉遣いは、北朝鮮の辞書にも出てくるような一般的な言葉遣いのため、反発を生むきっかけとなっています。

    まとめ

    韓国語と北朝鮮語に少しずつ、しかし大きな違いがあることを学習しました。これらの違いは、言葉に込められた歴史と文化の深さを物語っています。

    これは単なる言語の違いにとどまらず、2つの地域の複雑な歴史や政治状況が言葉に反映されています。発音や単語の違いは、単なる表面的なものではなく、言葉の奥に潜む豊かな意味や思想と重い背景を伝えています。

    言語は単なるコミュニケーション手段ではなく、その土地の歴史や価値観を背負った生きたものです。言語を学びながら学習する文化的・政治的背景は、その言語を話す人にとっては欠かせない前提知識となるのですね。

    関連リンク

    韓国内の韓国語教育としての文化教育の研究動向と日本の大学における韓国語教育の現状について 韓国語教育において、言語だけでなく文化教育も重要である点に焦点を当てた研究論文です。教育目的や内容の選定から評価方法まで幅広く論じており、韓国と北朝鮮の言語文化の違いを理解する上でも参考になります。

    韓国語学習と韓国に対するイメージ形成の関係 韓国語を学ぶ動機とそれが韓国に対するイメージ形成に与える影響を探る研究論文です。言語と文化の相互関係を深く掘り下げ、南北朝鮮の言語文化の違いを学ぶ際にも背景知識として役立ちます。

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